軽度認知機能障害MCIの神経病理

MCIの病理 認知症

抗アミロイドβ抗体薬の適応になってくる軽度認知機能障害MCIですが、実際のところMCIの神経病理はどのような状態になっているのか疑問に思い調べてみました。

今回紹介する1つ目の文献はNeuropathology. 2007;27(6):578-84.ですこし古いものになりますが、日本からの報告です。

対象は東京都高齢者医療センターのbrain bankからの545症例(平均年齢80.7歳)、545例中、486例(89%)でCDR評価が可能で、MCIに相当するCDR 0.5は57例でした。MCIはamenestic MCIとnon-amnestic MCIの区別はされていません。結果は下記です。

CDR 0.5 の神経病理診断

実際の抗体薬の適応年齢よりはやや高い年齢層になりますが、MCIでも神経変性疾患の割合は58%と約半数程度でした。また血管性の割合も比較的多く占めていることがわかります。

CDR 0.5の神経変性疾患の内容

Pure AD(AC)は19%(平均89.5歳)、年齢が高いため、AGC(平均87.3歳)、NFTC(平均91.6歳)も比較的多く含まれています。またACとの複合病例も多く認めていることがわかります。

全MCI(CDR=0.5)中10/57例(17.5%)、変性疾患10/33例(30.3%)がPure ADという結果で、80歳を超えてくる症例ではMCIをみてもPure ADはそれほど多くはないようです。

つぎに紹介する文献はAnn Neurol. 2017;81(4):549-559.にでた米国からの大規模なMCI神経病理のデータです。

対象は米国の4つのアルツハイマー病センターから得られた、正常またはMCI(CDR 0.5)状態から死亡まで縦断的に追跡された大規模な剖検シリーズで 1,337症例、開始時平均82.4歳、死亡時平均88.9歳の症例です。本研究でもamnestic MCI、non-amnestic MCIの区別はされておりませんでした。日本の報告と比較してどうでしょうか?以下4群に分けての検討です。

No Impairment: 生涯MCIや認知症の診断がなかった群(n=463)

MCI Reverters: 一時的にMCIと診断されたが、死亡時には認知正常だった群(n=122)

Stable MCI: MCIのまま死亡した群(n=343)

Dementia after MCI: MCIから認知症へ進行した群(n=409)

群名人数 (n)Baseline 年齢(歳)Mixed AD
MCI Reverters12284.2 ± 6.6ADCVD 74.2%
Stable MCI34385.7 ± 7.1ADCVD 73.4%
Dementia after MCI40982.5 ± 6.7ADCVD 61.5%

いずれの群も80歳越えの高齢者になります。約5~7割がMixed ADNC (Alzheimer’s Disease Neuropathologic Changes)で、Pure ADNCが17-24%でした。特にそのまま認知症に移行したMCIではPure ADNCはやや少ない傾向で、MCI reverterとStable MCIでは同程度でした。Mixed ADNCの中でも特に多いものが脳血管障害CVD(cerebrovascular disease)の合併でした。

脳血管障害病理の内訳

Large infarcts:直径1cm超の梗塞

Lacune:最大径 1cm以下 の小梗塞または小出血

Microinfarct:顕微鏡下でのみ検出可能 な皮質の梗塞

Hemorrhage:明確な脳内出血

病理項目MCI RevertersStable MCIDementia after MCI
Large infarcts16.4%17.2%23.7%
Lacune32.8%34.1%38.9%
Microinfarcts18.0%22.7%25.4%
Hemorrhage8.2%8.8%6.4%

とくにLacueの病理像がいずれの群においても多い結果でした。

米国でも80歳越えのMCIではPure ADは少なく、複合病理が増え、特にLacuneを主体とするような脳血管障害の合併が多いという傾向のようです。

抗アミロイドβ抗体薬使用の治験時の年齢はレカネマブが平均71.4歳(N Engl J Med. 2023;388(1):9-21.)、ドナネマブが平均74.3歳(JAMA. 2023;330(6):512-527.)と今回の文献と年齢が異なるため実際の臨床で適応を考えている年齢の患者さんがたとは異なるかもしれませんが、MCIでPET陰性であったときの場合など背景病理を考える上で、患者さんへの説明においても重要な点になるかと思います。

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