本日は、脳アミロイドアンギオパチー関連炎症:cerebral amyloid angiopathy-related inflammation (CAA-RI)について最近でた論文を紹介いたします。
Charidimou A. Cerebral Amyloid Angiopathy‐Related Inflammation Spectrum Disorders: Introduction of a Novel Concept and Diagnostic Criteria. Ann Neurol. 2025;97(3):470–474. doi:10.1002/ana.2716
CAAは皮質やくも膜下の小血管にアミロイドβが沈着する疾患で、脳葉型出血や認知障害の原因となり、臨床像とMRI所見の多様化が明らかになっています。さらにCAA-RIはCAA沈着血管に対する炎症応答が原因となり、急性/亜急性の認知機能低下、性格変化、意識障害、けいれん、頭痛などをきたします。MRI所見の特徴としては、多数の微小出血、皮質下白質の浮腫(血管原性)、髄膜や血管壁の造影効果を認めます。
現行のCAA-RIの診断基準(JAMA Neurol 2016;73:197–202)は非侵襲的診断を可能にするために開発されましたが、融合性の血管原性浮腫の存在を厳格に要求していることで臨床的には感度が低いとされ、特に注目すべきは、生検でCAA-RIと証明された患者の最大3分の1が、そのような典型的病変を欠いているということが分かっています。今回の論文では「amyloid spells(CAA関連一過性局所神経症状; transient focal neurological episodes (TFNEs))」と「CAA関連炎症(CAA-RI)」にも焦点をあてて、CAA-Related Inflammation Spectrum Disordersとして下記に示すように新たな診断基準の提案がされています。また脳生検についても下記に実施のタイミングの提案が記されている点も臨床的に有用と考えます。
脳生検に関する考慮点:
- 脳生検は、病理所見が斑状に分布するため診断の「ゴールドスタンダード」ではない。特に免疫療法開始後に行われた場合はその傾向が強い。
- 典型的なMRI所見が存在し、かつコルチコステロイドに対する明らかな反応性がある場合には、生検は不要と考えられる。
- 生検を考慮すべきは以下の場合である:
(a) 臨床的に疑われるが、これまでの非侵襲的検査で結論が得られない場合
(b) 第一選択の免疫療法に反応がない場合 - 診断の正確性を高めるためには、影響を受けた領域のくも膜および皮質の両方をサンプリングすることが望ましい。そうしないと偽陰性率が高くなる可能性がある。
CAA関連炎症スペクトラム障害の診断のための枠組みと提案基準
Definite CAA-Related Inflammation
適切な臨床状況での脳生検で以下が確認された場合:
- CAA陽性の皮質またはくも膜下血管(免疫染色でアミロイドβ沈着を証明)
- かつ、その血管に随伴する血管周囲または血管壁の炎症(血管炎性変化:リンパ球、組織球、±肉芽腫成分)
- (注:生検でCAAのみが検出され炎症がなくても診断を支持し得る)
Probable CAA-Related Inflammation Spectrum Disorders
以下の5項目すべてを満たす場合に診断できる:
- 年齢:40歳以上(下限年齢は明確ではない)。
- 臨床症状:以下のうち少なくとも1つを呈すること。
- 意識レベル低下
- けいれん発作
- 頭痛
- 精神症状(neuropsychiatric symptoms)
- 進行性または亜急性の認知機能低下
- 局所神経症状/徴候(変動してもよい)
- CAA関連一過性局所神経症状(TFNEs)
- 急性脳葉内出血(ICH)または急性cSAH
- MRI所見:以下のうち少なくとも1つ。
A. FLAIR MRIで皮質下白質の病変(血管原性浮腫に一致)、限局性、多巣性、またはびまん性。時に皮質に及ぶ。
B. 造影T1 MRIでの髄膜造影、またはFLAIR/T2での髄膜-溝内高信号(sulcal hyperintensity, effusion)(±脳回腫脹)。 - *出血性病変の証拠(SWIまたはT2)**:以下のCAA典型的病変のうち2つ以上を認める(組み合わせ自由)。
- 脳葉(皮質・皮質下)の微小出血
- 皮質表在性鉄沈着(cSS)
- cSAH
- 脳葉内出血(lobar ICH)
- 他疾患の除外:炎症性、腫瘍性、感染性、血管性などを除外すること。最低限必要な検査は以下を含む:
- 脳MRI(FLAIR、T2、DWI、出血感受性シークエンス〔できれば3TのSWI〕)
- 造影T1 MRI
- 血管壁画像(VWI)
- 髄液検査
- CTA/MRA
*従来のCAA関連炎症の診断基準には、基準1、基準2の一部、基準3Aおよび4の一部しか含まれていなかった。
CAA関連炎症スペクトラム障害診断を支持する所見
以下のいずれか1つ以上がある場合、診断をさらに支持する:
- 多数の皮質~皮質下微小出血(特に10個以上)
- 皮質表在性鉄沈着(cSS)またはcSAHの存在
- 出血性病変が血管原性浮腫の領域と一致または近傍に存在
- Boston基準v2.0で定義される非出血性CAAマーカーの存在
- 過去の脳葉内出血歴またはprobable CAA診断歴
- 実質性の造影効果の欠如(急性虚血によらない)
- 多発性の小さなDWI高信号病変
- CTA/MRAで大~中血管の血管炎を示唆する異常がない
- APOE ε4(特にε4/ε4)
- 髄液でAβ42低下(タウは変動あり)
上記新たな診断基準についての検討は今後の課題になるかと思いますが、これまでの旧基準では診断しきれなかった「典型的な融合性白質病変を欠く症例」であっても、新基準ではTFNEが包含され、髄膜造影・溝内高信号の組み入れ、表在出血性サインが重要となりましたので、実臨床でも使いやすい基準になっているかと思います。
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