シェーグレン症候群による無菌性髄膜炎 part 1

神経免疫疾患

シェーグレン症候群では中枢神経症状を呈することが知られていますが、今回無菌性髄膜炎についての関連性および診断について考えていきたいと思います。

Mod Rheumatol Case Rep. 2022 Jun 24;6(2):217-219. doi: 10.1093/mrcr/rxac011.

1つ目に紹介する文献は症例報告です。11歳から血清抗Ro/SSA抗体・抗La/SSB抗体陽性、無症候性でフォローされている経過中、18歳で無菌性髄膜炎を呈しています。

血液検査(入院時)
CRP3.03 mg/dL
IgG2583 mg/dL
ANAspeckled 2,560倍(陽性)
抗Ro/SSA抗体240 IU/mL
抗La/SSB抗体320 IU/mL
髄液検査所見
細胞数149/μL(93%多核球)
蛋白79.3 mg/dL
64 mg/dL
髄液抗Ro/SSA抗体107.4 IU/mL
髄液抗La/SSB抗体21.9 IU/mL
IL-6(髄液)Ref. values for serum, <8.0 pg/mL2623 pg/mL(↑)
IL-8(髄液)Ref. values for serum, <8.0 pg/mL12,968 pg/mL(↑)
TNF-α(髄液)Ref. values for serum,
0.6–2.8 pg/mL
4.9 pg/mL(↑)

小唾液腺生検でリンパ球浸潤(Greenspan Grade 3)を認め、probable Sjögren症候群と診断されています。

髄液IgG/血清IgG比(0.0058)と比較して、抗Ro/SSAおよび抗La/SSB抗体の髄液/血清比はそれぞれ0.448および0.068と高く、IgG比(抗体価指数)は抗SS-A抗体が77.5、抗SS-B抗体が11.7倍あり、これらの抗体が単に血清から髄液へ受動的に移行した可能性は低く、仮設段階ですが局所での産生が髄膜炎の発症に部分的に関与した可能性があると考えられています。

治療はプレドニゾロン(40 mg/日)投与で、頭痛・発熱・嘔吐は速やかに改善、10日目から漸減しメトトレキサート(6 mg/週)を併用。入院22日目の髄液では細胞数54/μL(単核球優位)、抗体価とサイトカインが減少し、1年半の再発なく経過しています。

Eur Neurol. 2007;57(3):166-71. doi: 10.1159/000098469.

2つ目に紹介する文献は無菌性髄膜炎とは離れてしまいますが、シェーグレン症候群に伴う中枢神経障害と髄液中の抗SS-A抗体の関連をみた興味深い3症例の報告です。NMOSDの疾患概念の確立して間もない時期で抗AQP4抗体が一般化していなかった可能性があり、NMOSDの症例は除外できてはおりませんが、MSに関してはおそらく除外はできているようです。以下に3症例のまとめを記載します。

項目患者1患者2患者3
臨床症状左半身および顔面の感覚低下、記憶・注意障害舞踏運動、認知障害、口腔・眼乾燥、関節炎両下肢筋力低下、感覚低下、尿失禁、過去に視神経炎+脊髄炎
MRI所見T2高信号:右橋、左右視床・内包(造影効果なし)T2高信号:左前頭白質(小病変、造影効果なし)T2高信号:D8〜円錐部(造影効果なし)
抗SSA抗体(血清)陽性陽性陽性
抗SSB抗体(血清)陽性陰性陰性
抗核抗体(ANA)1/10,000陰性陰性
血清IgG (g/L)39.28.5214
髄液細胞数 (/μL)6173
リンパ球割合 (%)938092
形質細胞 (%)21
髄液IgG (mg/L)2534590.2
アルブミン (mg/L)207200184
アルブミン比6.26.257.67
IgG index1.040.850.84
オリゴクローナルバンド陽性陰性陽性
抗SSA抗体index(髄液)1.670.924.29

3症例とも全例で血清及び髄液抗SS-A抗体陽性で、患者1のみ血清及び髄液抗SS-B抗体陽性という結果でした。いずれの症例もIgG indexまたはOCBの所見から髄内IgGの産生が示唆される結果で、抗SS-A抗体の抗体価指数(>1.5)の症例は症例1と3で上昇していました。

本症例報告のまとめとして、中枢神経病変を有する原発性シェーグレン症候群の3症例において、髄液中に抗SSA(Ro)自己抗体が存在していたことを初めて示したとされています。

Rinsho Shinkeigaku. 2025 Mar 27;65(3):236-239.

本症例は73歳時に口喝、レイノー症状で発症し、抗セントロメア抗体(ACA)陽性、抗SS-A抗体陰性、唾液腺シンチグラフィー、ガムテスト、口唇生検の検査の結果、シェーグレン症候群と診断されプレドニゾロン1mg/日でフォローされていた症例です。79歳時に亜急性の歩行障害で受診、小刻み開脚歩行、左上肢巧緻運動障害、前頭葉機能障害を認めていました。血液検査ではACA陽性(113 U/ml、正常値<10.0)、抗SS-A/SS-B抗体陰性、CRP1.69 mg/dl、CSFは単核球優位の細胞数増多(14/μl、単核球13/μl)、蛋白上昇(59.5 mg/dl)、感染性原因は除外(髄液中の自己抗体についての言及はありません)。頭部MRIでは右前頭部外側にFLAIR像・造影T1強調像で高信号と、脳血流SPECTで右優位の両側前頭葉で集積低下あり、抗セントロメア抗体単独陽性シェーグレン症候群関連髄膜炎と診断されています。メチルプレドニゾロンパルス療法(1,000mg/日×3日間)を2コース行い、プレドニゾロン25mg/日で短距離独歩可能となり、前頭葉機能障害の改善(FAB 14→16点)、画像所見の改善(MRI病変不明瞭化、脳脊髄液細胞数減少)を認めました。

ACA陽性SjSの特徴

  • 一次性SjS患者の約3.8%がACA単独陽性
  • 発症年齢が遅く、女性に多い
  • 皮膚限局型全身性強皮症様症状が目立つ
  • 神経症状の頻度は低いとされていた

臨床的意義としては、抗SS-A抗体がなくても、無菌性髄膜炎の鑑別診断として、ACA単独陽性SjS関連髄膜炎も考慮すべきということでしょうか。

Part 1のまとめ:

無菌性髄膜炎の症例でシェーグレン症候群の可能性を鑑別にする場面では、

  • 髄液中のSS-A/SS-B抗体を測定:いずれかが陽性であること(特にSS-A)
  • 上記陰性であっても抗セントロメア抗体は確認する
  • シェーグレン症候群の診断基準を満たす
  • 他疾患の除外

上記ができた場合はシェーグレン症候群による無菌性髄膜炎と診断することになるかと思います。

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