シェーグレン症候群による無菌性髄膜炎 part 2

神経免疫疾患

シェーグレン症候群(SS)による神経系の症状は、末梢神経系では約15%、中枢神経系では約5%の患者に認められるとされています。無菌性髄膜炎についての報告について追加していきます。

Akiyama, Takuya, et al. “Aseptic meningitis as an initial presentation of Sjögren syndrome: a report of two cases and literature review.” Nagoya Journal of Medical Science 82.3 (2020): 595.

日本からの報告です。SSに関連したaseptic meningitis(AM)またはaseptic meningoencephalitis(AME)の報告症例の臨床的特徴について既報告がまとめられています。

年齢/性別発症関係フォローアップ期間(月)ドライアイドライマウス抗Ro抗体抗La抗体髄液細胞数/μL(単核球, %)治療
52F同時18900(40)GC
50F同時1233(18)GC
46F同時2170(60)GC
33F同時64245(0)GC
33F同時3.5238(79)
25F同時256NANANANA133(100)GC
56F既知SS48104(100)IVIg
42F既知SS12NANA161(100)GC
45F既知SS0.4NANANANA341(3)
59F既知SS9NANA23(22)GC
41F既知SS21NA640(NA)GC
27F同時2363(30)GC
18F同時669(90)GC + CY
29FAM先行9NANA140(80)GC
15F同時277(75)GC
48F同時96NANA224(38)GC
8FAM先行72NANA16(70)GC
76F同時14NANA699(60)
14M同時11632(37)
26F既知SS14603(38)GC
11MAM先行2640(NA)GC→GC
8F同時1630(83)GC + CyA→GC
35F同時13NANA381(3)GC
62F既知SSNANA38(18)
50F同時4843(NA)GC
29FAM先行72NANA153(95)GC→GC→GC
58F同時124NA192(40)GC
19FAM先行39NANANA885(81)GC
16F既知SS5.743(98)GC
32FNA84162(90)GC
42F同時NANANANANA382(45)GC
19MAM先行7814→530(7→445)GC→GC→GC + AZP
23F同時11+(1年)11→31(詳細不明)抗菌薬→自然軽快

F:女性、M:男性、FUP:フォローアップ期間、NA:記載なし(Not available)

AM:無菌性髄膜炎(または髄膜脳炎)

GC:グルココルチコイド(ステロイド)

CY:シクロホスファミド、CyA:シクロスポリンA、IVIg:免疫グロブリン療法

33症例のシェーグレン症候群に関連するaseptic meningitisまたはaseptic meningoencephalitisが同定されています。うち女性が30例、男性が3例であり、

 -平均年齢は34.8 ± 17.4歳、女性30/33例有意

 - AM/AMEのうち約70%がSS診断前または同時に発症

 -初回髄液所見:細胞数中央値104/μL(IQR 40–245)、単核球割合63.5%±39.7、蛋白中央値55 mg/dL(IQR 5–84)、糖平均60.0±15.7 mg/dL

 - 多くの症例で抗Ro/SSA抗体(82%)が陽性

 - 初発症状は頭痛・発熱・悪心などが多く、神経学的後遺症を残す症例もあり

 - 再発例も多く(36%)、平均3回の再発を報告

診断のポイントとして、ドライアイ・ドライマウスがない例も多く、AM/AMEの背景にSSがあることを疑いにくいため、 原因不明のAMまたはAME症例においては、抗Ro/SSA抗体のスクリーニングや乾燥症状、唾液腺炎、関節痛といった自己免疫的特徴の全身評価が有用とされています。

つぎに、抗SS-A抗体の中枢神経系への病的意義について考えていきたいと思います。

Tetsuka, Syuichi, et al. “Anti-Ro/SSA antibodies may be responsible for cerebellar degeneration in Sjogren’s syndrome.” Journal of clinical medicine research 13.2 (2021): 113.

症例報告:小脳変性とCIDPの2症例が報告されています。下記にまとめます。

項目Patient 1(小脳変性)Patient 2(CIDP)
年齢・性別36歳・男性53歳・男性
主訴進行性歩行障害(2週間)四肢のしびれと筋力低下(3年間)
神経症状四肢・体幹の小脳失調、構音障害、歩行不能運動・感覚障害、深部腱反射消失、小脳症状なし
SARAスコア初回:24.5 → 治療後:12記載なし
感覚障害なし両上下肢と体幹左側に感覚鈍麻、振動覚・位置覚低下
血清抗Ro/SSA抗体≥ 1200 U/mL(陽性)26.5 U/mL(陽性)
血清抗La/SSB抗体198 U/mL(陽性)24.5 U/mL(陽性)
髄液抗Ro/SSA抗体15.9 U/mL(陽性)< 1.0 U/mL(陰性)
髄液抗La/SSB抗体< 1.0 U/mL(陰性)< 1.0 U/mL(陰性)
髄液蛋白記載なし96 mg/dL(高値)
脳MRI初回正常 → 1年後に小脳萎縮異常なし
唾液腺生検リンパ球浸潤あり(SjS診断を支持)同上
神経伝導検査記載なし脱髄型多発根神経障害(CIDP)
治療ステロイドパルス+経口ステロイド+IVIG 2回記載なし(治療詳細は本論文では省略)
診断SjSに伴う小脳変性(CNS障害)SjSに伴うCIDP(PNS障害)

上記2症例の検討から、中枢神経病変では、髄液中の抗SS-A抗体がバイオマーカーになる可能性が指摘されています。

さらに本研究では、抗SS-A抗体が認識しているRo52/TRIM21抗原がマウスの中枢神経系に広範囲に分布しており、特にプルキンエ細胞で高発現していることを免疫組織化学的に証明していますが、髄膜での発現についての記述はありません。

以上より、シェーグレン症候群で中枢神経病変(小脳変性)がでた症例から、髄液中の抗Ro/SSA抗体はSjS関連中枢神経障害のバイオマーカーとして有用な可能性が報告されています。まだ確立した概念ではないかと思いますが、Part 1でも記載したように、無菌性髄膜炎や小脳変性などシェーグレン症候群の中枢神経障害が疑われた時の検討事項として髄液中の抗SS-A抗体は測定してもよい検査ではないでしょうか。

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