後脊髄動脈領域の脊髄梗塞とは?症状・診断・MRI画像の特徴

血管障害

脊髄梗塞の大半は前脊髄動脈領域(ASA)に発生しますが、稀に後脊髄動脈(PSA)領域に梗塞をきたすこともあります。前回のreviewに続いて、今回はPSA領域の脊髄梗塞の臨床的特徴についてみていきたいと思います。

Zalewski NL, Rabinstein AA, Wijdicks EFM, et al. Spontaneous posterior spinal artery infarction: An under-recognized cause of acute myelopathy. Neurology. 2018;91(9):414–417. doi:10.1212/WNL.0000000000006084

本研究では、1997~2017年にMayo Clinicで診断された前脊髄梗塞133例中PSA梗塞15例(11%)を後ろ向きに検討し、その臨床像、画像所見、転帰を明らかにすることを目的としています。

年齢中央値:64歳(36~75歳)、女性:60%、

14/15例(93%)で血管障害リスクをもっていました:(脂質異常症73%、喫煙40%、高血圧40%、糖尿病7%、心房細動7%)

臨床的特徴

項目症例数/割合
発症から最大障害までの時間 ≤4時間12例(80%)
同 ≤6時間1例(7%)
≥24時間(段階的悪化)2例(13%)
感覚障害(後索優位)15例(100%)
筋力低下11例(73%)
発症時の疼痛9例(60%)
排便・排尿障害8例(53%)
感覚性運動失調7例(47%)

症状のピークまでが4時間以内、PSA領域の後索障害に伴う感覚障害や感覚性運動失調以外にも、筋力低下や膀胱直腸障害を呈しています。また前回のreviewでも取り上げましたが60%の症例で発症時の疼痛があることも特徴的かと思います。後索をこえた所見がでる理由としては、脊髄血管支配の重なりや多様性、初期の前脊髄動脈(ASA)虚血の併存、あるいは浮腫による可能性が考えられています。

髄液所見

項目症例数/割合備考
蛋白上昇(>35 mg/dL)7例(47%)中央値:59(43–116)mg/dL
白血球増加0例(0%)
OCB陽性0例(0%)

MRI所見

項目症例数/割合備考・中央値(範囲)
脊髄病変15例(100%)1日(0~38日)
初回MRI正常(発症後0–1日)5例(33%)
非連続性T2高信号9例(60%)
長大病変(3椎体以上)9例(60%)
Gd造影効果6例(40%)検査日:14日(6~21日)後
脊髄軟化(1か月以降)6例(40%)
椎体梗塞3例(20%)発症後4日(1~19日)で確認
拡散強調像での制限3例中2例(67%)発症後2日(1~3日)で確認
頸髄病変8例(53%)
胸髄病変7例(47%)

髄液所見は発症何日目に実施したかという記載はありませんが、蛋白細胞解離を示ることが約50%で認めることがわかります。MRI所見では発症当日は33%が偽陰性となり、DWIでの評価が行われている症例数は少ないですが67%で認めています。またT2高信号病変が3椎体以上になることが60%ありますが、一方で不連続性が60%に認められるという所見です。椎体梗塞の頻度は少なく20%となっています。また、頸髄病変の頻度が高く、血管解離や閉塞などMRAによる評価も必要となってきます。

治療

項目内容・人数補足
誤診により免疫治療を受けた患者11例(73%)ステロイド:10例、IVIg:4例(重複あり)
血栓溶解療法(t-PA)1例発症4時間後に施行、急性期の効果なし/2か月後にAFOで歩行可能に
最終的な治療方針血管リスクの管理と抗血小板療法SCIと確定後に開始

治療については、免疫治療(ステロイド、IVIg)が実施されている割合が比較的たっかう73%、t-PAも使用されている症例が1例ありました。また診断確定後はリスク管理、抗血小板薬の使用となっています。

転機

項目内容・人数補足
フォローアップ期間の中央値8か月(範囲:1~71か月)
歩行可能(補助具なし)8例(53%)
歩行補助具が必要6例(40%)杖などの使用を含む
非歩行1例(7%)
症状の改善あり13例(87%)
症状改善なし2例(13%)うち1例は追跡期間1か月未満
新たな神経学的イベントの発生0例(0%)

約半数の症例が補助具なしの歩行が可能となり、補助具使用での歩行も40%と、合わせると93%の症例で歩行可能になる割合が高いという結果となっていました。

Tan YJ, Teo TL, Yeo CL, et al. Clinical Features and Outcomes of Posterior Spinal Artery Infarction: A Systematic Review. Research Square (2023). doi:10.21203/rs.3.rs-3645041/v1, CC BY 4.0

つぎに紹介する文献は、後脊髄動脈梗塞(Posterior Spinal Artery Infarction, PSAI)の臨床的特徴と転帰を整理し、歩行障害との関連因子を明らかにすることを目的として、過去30年の文献を系統的にレビューしたものです。

対象期間:1993年~2023年6月、データベース:PubMed, Google Scholarから、最終的に40症例(33報)を分析対象としています。

年齢中央値:55歳(範囲19–84)、男性23例、女性17例

心血管危険因子あり:53%(高血圧76%、喫煙38%、脂質異常症29%、糖尿病24%)

神経所見

項目症例数/割合
疼痛19/48%(そのうち15/19例, 79%は発症初期)
感覚障害38/97%
後索障害28/74%
脊髄視床路障害13/34%:同側1例、対側5例、両側7例
運動障害27/69%
膀胱障害13/33%
Brown-Sequard症候群(完全・部分)14/36%
顔面感覚障害(C1/延髄病変を伴う)5/13%

このreviewでも発症時の疼痛がやはり多く、後索障害以外にも錐体路、脊髄視床路におよぶ障害が合併することが30-60%でみられるようです。また膀胱直腸障害やBrown-Sequard症候群を呈することも報告されています。

病変の分布

頚髄病変が大多数(73%):40例中29例で頚髄に病変を認め、そのすべてが高位頚髄(C1–C4)に及んでいました(28/28例、100%)。

最も多い病変レベル:C1(61%)
 以下、頻度順に
 - C2:48%
 - C3:33%
 - C4:30%
 - C5:19%
 - C6:15%
 - C7:11%

胸髄病変は32%(12/37例): 頚髄+胸髄の合併はごくわずか(1例のみ)。

病変の左右差片側性病変が多数(64%)、 左側が右側の約2倍(左68%、右32%)

病変の長さ: 多くは短い病変だが、3セグメント以上に及ぶ長い病変も40%に認められた

周囲構造への波及は稀
 - 延髄:9例
 - 小脳:4例
 - 椎体:3例

誘因

明確な誘因がある症例は23例(57%)となっています。

  • 外傷性誘因(8/23例、35%): 荷物運搬、シャッターの上げ下げ、交通事故、頭部外傷を伴う転倒など
  • 非外傷性誘因(7/23例、30%): 血管内治療(動脈瘤、硬膜動静脈瘻、椎骨動脈や後下小脳動脈・脊髄動脈の狭窄に対する治療)
  • その他の誘因(少数例): 洗顔、階段昇降、雪かき、頚部の過伸展など多様

主な原因

  • 椎骨動脈解離(VAD):8例(20%)
  • 血管内治療の合併症:7例(18%):VADの治療後3例、dAVF治療後2例、椎骨動脈狭窄治療1例、椎骨動脈瘤治療1例
  • 塞栓性疾患(まれな例):線維軟骨塞栓、僧帽弁線維束、卵円孔開存

治療

  • 記載があった28例中
    • 抗血小板薬使用:18例(64%)
    • 抗凝固薬使用:8例(29%):静注ヘパリン、ウロキナーゼ、皮下注LMWH、経口ワルファリン/リバロキサバン
    • ステロイド高用量使用:5例(18%)→ 少なくとも3例はメチルプレドニゾロンの静注

転機

  • 報告のばらつきあり:アウトカム評価の記載が不完全で、時点も不統一(退院時~2年後まで)
  • 全体
    • 死亡:3例(34例中9%)
    • 歩行可能:28例(34例中82%)
    • 歩行補助が必要だった者:28例中8例(29%)

歩行転機に影響する因子

比較項目歩行困難群(n=6)歩行可能群(n=28)有意差(p値)
年齢(中央値)67歳(52–84)56歳(28–79)0.055(傾向あり)
性別(男性)33%57%有意差なし
心血管危険因子あり67%46%有意差なし
発症前の外傷50%11%0.053(傾向あり)
Brown-Sequard症候群(部分含む)50%37%有意差なし
疼痛の有無67%43%有意差なし
筋力低下あり100%64%有意差なし
頚髄梗塞67%71%有意差なし
胸髄梗塞33%29%有意差なし
両側病変33%37%有意差なし
3セグメント以上の病変83%33%0.062(傾向あり)
延髄または小脳の梗塞合併33%25%有意差なし
– 延髄病変あり33%21%有意差なし
– 小脳病変あり17%11%有意差なし
原因不明33%21%有意差なし
椎骨動脈解離0%21%有意差なし
血管内治療合併症0%25%有意差なし

P<0.05となる項目はいずれもありませんでしたが、高齢・外傷歴・長い病変(3セグメント以上)は、歩行困難(非自立)と関連する傾向がみられています(p≒0.05付近)。また、性別、危険因子、病変の左右・部位、症状(痛み・筋力低下)、病因(原因不明、VAD、血管内治療)も歩行予後に有意な関連はみられませんでした。

後脊髄動脈領域の脊髄梗塞の臨床的特徴のまとめ

およそ50-60歳代に発症する疾患、高血圧などの血管障害リスクを持つことが多く、発症時の疼痛がみられ、症状のピークまでが4時間以内が病歴聴取でのポイントになります。また、診察所見では頚髄>胸髄の障害が多く、PSA領域の後索障害以外にも脊髄視床路、錐体路障害を合併することもあります。髄液では蛋白細胞解離となることがあり、MRIでは発症から1日は偽陰性となることが多く、T2高信号は3椎体以上となったり不連続性の病変を呈することがあります。急性期治療は抗血栓療法がおこなわれることが多く、臨床転機としては、錐体路障害が顕著になることは少ないため、歩行可能となる症例は多いため、疑わしい症例はしっかりと診断して、適切なリハビリテーションへつなげることが重要と思います。

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