MOGAD(myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease)の表現型としては視神経炎や、脊髄炎が主なものですが、無菌性髄膜炎を呈することも報告されています。無菌性髄膜炎の症例で、MOGADを狙って検査することはできるのでしょうか?臨床的特徴をみた2つの文献を紹介していきます。
1.J Neuroimmunol. 2021 Sep 15:358:577653. doi: 10.1016/j.jneuroim.2021.577653.
無菌性髄膜炎および髄膜増強所見(leptomeningeal enhancement, LME)を初発症状としたMOG抗体関連疾患(MOGAD)について、症例の系統的レビューを行った報告です。
検索対象:PubMed、Embase、Ovid MEDLINE、Web of Science、Google Scholar(2020年12月まで)
組み入れ基準:無菌性髄膜炎で発症、MRIでLMEを認める、MOG抗体陽性
診断定義:発熱、頭痛、髄膜刺激徴候、けいれん、または髄液細胞増多によって無菌性髄膜炎と判断
結果:
年齢:11歳~37歳、11症例あり男女比:男性6例、女性5例、すべての症例で無菌性髄膜炎(頭痛、発熱、頸部硬直など)を呈し、うち5例では脱髄症状なし(純粋な髄膜炎症状のみ)、6例は視神経炎や感覚障害などの脱髄症状を伴っていました。
髄液所見:細胞数(n=8)は中央値43(range 8–264 cells/μL)、蛋白(n=4)は中央値106.2 (range 54 – 121 mg/dL)、OCB(n=5)は全例陰性でした。
MRI所見:6例は初診時にT2高信号の脱髄病変を伴い、 5例はLMEのみで脱髄所見なし、しかしそのうち4例は後に脱髄症状や所見を呈しています。
MRIの脱髄病変の分布:
大脳:皮質/皮質下領域、視神経/視神経交差、基底核/視床
脳幹:延髄
脊髄:頸髄~胸髄レベル
無菌性髄膜炎先行後に脱髄症状を呈するまで数日~1か月で記載(n=4)、つまりMOGADによる無菌性髄膜炎が初発症状となる可能性があるということを示唆しています。
治療に関しては、LMEのみで脱髄病変のなかった5例はいずれも免疫治療(4例がグルココルチコイド、1例がIVIg)を必要としました。また11例中6例(55%)が再発を経験。再発は初発から1~10か月後に起きています。一部はグルココルチコイド減量や中止後に再発がみられています。
2.Mult Scler Relat Disord. 2023 Oct:78:104939. doi: 10.1016/j.msard.2023.104939.
中国からの報告です。MOGADによる無菌性髄膜炎の組み入れ基準は下記です。
組み入れ基準:
- 急性の髄膜炎症状(発熱、頭痛、項部硬直など)
- 髄液所見:細胞増多(WBC > 5/mm³)、起炎微生物の証明なし
- MOG-IgG陽性(cell-based assay )
- 初発または唯一の症状として無菌性髄膜炎を呈する
- 他疾患(感染症、腫瘍、他の自己免疫疾患)は除外
結果:
MOGAD91症例中16人で無菌性髄膜炎(17.6%、男性9人、女性7人)を認めました。
発症年齢の中央値は23.5歳(±15.7)、小児7例、成人9例(比率 1:1.3)。
背景 | 小児例(n=7) | 成人例(n=9) |
平均年齢 | 12.0歳 | 35.8歳 |
性別(男性:女性) | 4:3 | 5:4 |
発熱 | 6例(85.7%) | 8例(88.9%) |
頭痛 | 5例(71.4%) | 7例(77.8%) |
けいれん | 2例(28.6%) | 1例(11.1%) |
髄膜刺激徴候 | 6例(85.7%) | 7例(77.8%) |
白血球増多(血液) | 6例(85.7%) | 6例(66.7%) |
NLR ≧ 3.0(血液) | 6例(85.7%) | 8例(88.9%) |
髄液蛋白, mg/L | 622(230–1247) | 675(220–1481) |
髄液細胞数, /μL | 92(28–468) | 200(28–1020) |
IgG index | 該当データなし | 該当データなし |
オリゴクローナルバンド | 該当データなし | 該当データなし |
EEG異常 | 3例中2例(66.7%) | 4例中4例(100%) |
VEP異常 | 2例中1例(50.0%) | 3例中1例(33.3%) |
BAEP異常 | 2例中0例(0%) | 3例中1例(33.3%) |
髄膜造影増強のみ | 4例(57.1%) | 4例(44.4%) |
無症候性の非対称性脱髄病変 | 1例(14.3%) | 1例(11.1%) |
初期脳MRI正常 | 3例(42.9%) | 3例(33.3%) |
脊髄MRI:髄膜造影増強のみ | 1例(14.3%) | 1例(11.1%) |
視神経MRI:炎症あり(視力低下なし) | 1例(14.3%) | 1例(11.1%) |
MOG抗体陽性(血清) | 7例(100%) | 9例(100%) |
MOG抗体陽性(髄液) | 6例(85.7%) | 7例(77.8%) |
略語 NLR:Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio(好中球/リンパ球比)、VEP:Visual Evoked Potential(視覚誘発電位)、BAEP:Brainstem Auditory Evoked Potential(脳幹聴覚誘発電位)
髄液糖は2例のみで低下、頭蓋内圧の亢進(>200 mmH₂O)は43.8%(7例)あり。MOGADの髄膜炎では感染性髄膜炎に類似する結果ですが、髄液糖の低下に乏しいという点が鑑別点になっています。IgG indexやオリゴクローナルバンドが参考になるのかどうかは本文献からは見出せませんでした。
さらに16例中5例(31.3%)が28.8日(16~60日)で視神経炎や急性散在性脳脊髄炎ADEMの症状を呈したとされています。systematic reviewの文献と合算すると15/33例(45.5%)で無菌性髄膜炎が27.5日(3~60日)先行し、その後に他の神経症状をきたすことが報告されています。
また治療については、全例(16例)に免疫療法として、IVMP(静脈内メチルプレドニゾロンパルス療法)、あるいは経口プレドニゾロンが行われ治療反応は良好で、すべての症例で数日以内に症状が改善しています。
まとめ:感染性髄膜炎に類似し髄液糖低下のない若年で原因不明の無菌性髄膜炎や、頭痛や発熱が先行し視神経炎や脊髄炎などを呈するような症例(無菌性髄膜炎が先行していたような病歴)ではMOGADの可能性を念頭にいれて、感染症除外後は免疫治療を検討する必要があります。
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